仔犬の飼い方



あ〜も〜どうしてこうなっちまうかねぇ…

またギャンブルに負けて、カイジはすってんてんである。やめときゃいいのに、どうして突っ込んでしまうのか…

『フリーターでも大丈夫!』というふれこみのCM打ってるカード会社のご融資可能枠は「5万円」…初めて作ったカードでそれ。あまりの金額に頭に来て、カードをふたつにへし折り…もし誰かに拾われて、復元できるヤツに利用されたら後が怖いので、とりあえずポケットに突っ込んではあるが、ともあれどうやらブラックに乗ってるらしい…まぁ当然といえば当然だが。

で、当座の生活費をどうするか?…貸してくれそうな人物といえば、一人しか思い浮かばない。

時間も時間で、遠藤金融もすべての電気が消えているので、直接マンションの方へ向かう。入れてもらえなければ、それはそれでもう、仕方がない。

オートロックで部屋番を押せば、数秒後、スピーカーから「ふんっ」と遠藤の鼻を鳴らす音がして、自動ドアが開く。どうやらカメラで来客がカイジだとわかったらしい。

失礼な対応に若干頭に来たが、仕事も終わってくつろいでる時間の来客にいい顔をするはずもないと、ややあきらめ気味にカイジは建物の中に入った。

部屋の玄関脇のブザーを鳴らせば、遠藤が無言でドアを開ける。帰ったばかりなのか、上着は脱いでいるが、シャツもスラックスもビジネス使用。ネクタイだけがだらしなく首に引っ掛けた状態である。

なにやら憮然とした態度で、中に入るよう促され…鍵をかける音がいやに大きく聞こえ、防犯を考えれば当たり前の行動とはわかっていても、その後の展開を考えると、やっぱり選択を誤ったなぁとカイジは内心思う。

不意にパタパタと、奥からなにやら駆けてきた。

「あ〜カイジちゃん、ダメじゃないでちゅか〜」

「あ゛あ゛っ!?」

ざわざわざわざわざわ…

カイジは我が耳を疑った。

「ほらほら、おとなしくちまちょうね〜」

遠藤が図体とツラに似合わず、仔犬を飼っている。その上、座敷犬飼いたてで浮かれるおばはんのごとく、幼児言葉で仔犬にしゃべりかけている。しかも名前が自分の名前…カイジは頭が痛くなってきた。

「あのさぁ…どういうつもりだ?」

どう考えても新手のイヤガラセ。だが、自分が来ることを見越していないと、こうもタイミングよくこんなマネができるかどうか…よもや発信機がついてるんじゃないかと思いつき、カイジは自分の服、持ち物などをその場で調べ始める。

「なんだ?人様のうちにきて、いきなりがさごそと。お邪魔しますとか、挨拶一つできんのか。…あんなダメな子になっちゃだめでちゅよ〜カイジちゃん」

自分に対してはいつもの悪態…カイジの知る遠藤と変わらないのに、仔犬に対してはやっぱり赤ちゃん言葉。もう、純粋に怖い。カイジにとっては自分の耳を切り落とす以上に正気でない世界。ほとんどホラー。

「だ〜か〜ら〜っそれをやめろっ!つーか、なんで犬の名前が俺の名前なんだっ!?遠藤っ」

「俺が自分のペットにどんな名前つけようと勝手だろう?どうでもいいが、しつけのさいちゅうなんだから、邪魔をするな。別に冷蔵庫のもん、食ってていいから、その辺に座っていろ」

そりゃどんな名前をつけようと、飼い主の勝手だけど、この間テレビで見た動物病院では姓が飼い主の姓で下はペットの名前で畜患が呼ばれてた…つまりここんちの犬が動物病院の世話になることになったら「遠藤カイジ」…自分が養子になったみたいですごく嫌。頭が痛い。

なにやら頭に来たので、冷蔵庫を開ける前に、戸棚の方を調べると、どうやら秘蔵のブランデーを発見。それをグラスに注いで、氷を落とし込み、冷蔵庫を開ければ、食えるものといえばサラミくらいしか入っておらず…歯で袋をちぎると、包丁でスライスすることなく、無遠慮に食いちぎる(どっちが本物の犬なんだかわかりゃしない)。

どうやらテレビをつけさせてくれないので、見るともなしに遠藤が仔犬をしつける様を見ていると、遠藤は自分のひざの間に仔犬を背中向きに座らせて、「おおよちよち、いい子だねぇ〜」などと言いながら、背中から抱きしめ、腹だのあごの下だのをくすぐり、そのたびに仔犬は心地よさそうにキュ〜ンキュンと鼻を鳴らし…

「ん〜…カイジちゃん、気持ちいいでしゅか〜?」

ぷちんとカイジの中で何かが切れた。

「やめろおい」

「あ?人のアニマルセラピーの時間を邪魔する気か?」

「なにがアニマルセラピーだ!つーか、人の名前付けて幼児プレイをするのはやめろ!気色悪い!あ〜っもう、別にあんたがアニマルセラピーで幼児プレイするのはかまわねぇよ?それは本人の趣味嗜好の問題だし。だが、それをやるんなら、肖像権やらなにやらの名において、その犬の改名を要求する!」

高級酒を飲みつけないためか、酔いが廻りまくり、その力を借りて言いたいことが言えて少しはすっきりしたカイジだが、遠藤がにやりと笑うのを見ると、酔った頭の中で、やっちゃったかなぁ?などといやな感じにとらわれる。

遠藤は仔犬をゲージに戻すと、「別に犬の名前、変えてやってもいいけどなぁ…」などと遠藤は言いながら、カイジに迫り、そのままカイジを床に押し倒す。

「改名の手数料としつけを邪魔した分の代価を支払ってもらおうか?」

「何言ってんだよ、バカっ」

「やっぱこっちのバカ犬からしつけなおさないと、うちのカイジがまねしたら困るしな」

「やだっ、やめろって。あんた、いたいけな幼児にR指定の映画見せるようなマネするんじゃねぇよっ」

「別にマウント行為見せたからって、どうってことありゃしないだろうよ。それよりお前、おんなじこと、して欲しかったんじゃないのか?」

「ば…バカ言えっバカ…」

…夫婦喧嘩は犬も食わない…とばかりに、ケージの中の仔犬はひとつ、あくびをした。



後日談

「で?犬の名前は?」

「ああ、カイジ犬」

「ぜんぜん変わってねぇじゃねーかっ!」

「犬がついただろ、犬が」

「ウナギ犬みたいな語感だからやめろっ!」

「ウナギ犬みたいでかわいいからそれにしたんだよ。これ以上の譲歩を求めるなら、それ相応の代価が必要だな」

「……もうなんだっていいよ。もうっ」





あとがき
 遠藤の幼児語は自分で書いてて気持ち悪かったです…思いつきだけで行動するのはやめたほうがいいよ、自分…